お気に入りの香りを纏ったはずなのに、なぜかすぐに消えてしまう…。そんな悩みをお持ちではありませんか。「香水がすぐ消える人」というのは、決してあなたの体質や香水との相性が悪いわけではありません。その原因は、肌の科学(肌化学)やお手入れ、そして香水の「纏い方」と「選び方」にあるのです。この記事では、なぜあなたの香りだけが早く消えてしまうのか、その科学的根拠から、香りを一日中楽しむための専門的な技術、そして「賦香率」や「アンバー」のような長く続く香りの選び方まで、フレグランスマイスターとして徹底的に解説します。この記事を読めbあ、あなたは「香りが消える人」を卒業し、香りを真の味方につけることができるでしょう。
- 香りが消える原因は「乾燥肌」と「肌化学」にある
- 香水の持続は「保湿」と「こすらない」技術が鍵
- 「賦香率」と「ベースノート」が持続性を左右する
- 長く続く傑作香水の選び方とマイスター厳選品
「香水がすぐ消える人」が知るべき4つの原因
- 肌が鍵?乾燥肌と皮脂のサイエンス
- 体温とpH:香りを変える「肌化学」
- 香りの種類と構造:賦香率とノートの真実
- あなただけが感じない?「嗅覚の順応」
肌が鍵?乾燥肌と皮脂のサイエンス

あなたが「香水がすぐ消える人」だと感じている最大の理由は、あなたの肌の状態にあるかもしれません。
香水の世界では、肌は香りを留めておくための「キャンバス」です。そして、そのキャンバスの状態を左右するのが、「皮脂」すなわち肌の油分です。
研究によれば、オイリー肌(脂性肌)の人は、肌に天然の油分が多いため、香りの分子がその油分に「捕らえられ」、長く肌に留まる傾向があります。油分が香りの分子を抱きしめて、揮発するのを遅らせてくれるのです。
一方で、乾燥肌の人の場合、話は逆になります。肌表面が乾燥していると、香りの分子が「掴まる」場所がありません。肌は潤いを求めて、香水に含まれるアルコールや油分を急速に吸収しようとします。その結果、香りの分子は肌に留まることなく、すぐに空気中へと揮発してしまうのです。
これは、あなたの肌が香りを拒否しているわけではありません。ただ、香りがその美しいメロディを奏で続けるための「ステージ」が、少し乾いてしまっているだけなのです。
香道Lab.この事実は、私たちに非常に重要な示唆を与えてくれます。それは、香りの持続性の問題は、フレグランスの問題である前に、スキンケアの問題であるということです。この後のセクションで詳しく解説しますが、香りを纏う前に「保湿」という名の土台を作ってあげること。これが、「香水がすぐ消える人」を卒業するための、最も基本的で最も効果的な答えとなります。
体温とpH:香りを変える「肌化学」


肌の乾燥問題がクリアできても、まだ考慮すべき要素があります。それが、私たち一人ひとりが持つユニークな「肌化学(スキンケミストリー)」です。
同じ香水をつけても、友人とはまったく違う香りになったり、持続時間が異なったりした経験はありませんか?それは、あなたの肌の化学的特性が、香水の分子と複雑な相互作用を起こしている証拠です。
主な要因は2つあります。
第一に、「体温」です。香水は熱によって揮発し、香りを拡散させます。私たちが香水を「脈打つ場所」(パルスポイント)につけるのは、そこが体温が高く、香りが効率よく広がるからです。しかし、これは諸刃の剣でもあります。体温が平均より高い人や、運動後、暑い日などは、香りの揮発が通常より速まり、結果として香りが「早く消える」と感じることになります。
第二に、より複雑なのが「肌のpHレベル(酸性度)」です。多くの人の肌はpH4.5から5.5の弱酸性に保たれています。しかし、食生活やストレス、使用するスキンケア製品によって、このバランスは変動します。
pHレベルと香りの変化
- より酸性の肌:シトラスやフレッシュなノートが際立ち、香りが「シャープ」に感じられることがあります。
- よりアルカリ性の肌:香水の「輝き」が失われ、フローラルやフルーティなノートが弱まり、全体的に「くぐもった(muted)」印象になることがあります。
つまり、あなたが「香りが消えた」と感じている時、実際には香りが消えたのではなく、あなたの肌のpHによってトップノートやミドルノートの明るさが奪われ、香りの印象が「くぐもって」しまい、感じにくくなっている可能性もあるのです。
さらに、私たちのホルモンバランスも香りの感じ方に劇的な影響を与えます。ストレスを感じてコルチゾールが分泌されると、発汗や皮脂の酸性度が高まり、香りが早く飛ぶ原因にもなります。あなたの「肌化学」は、あなたの体調や心の状態を映す鏡であり、それが香りと対話しているのです。
香りの種類と構造:賦香率とノートの真実


もしあなたが「どんな香水を使っても消えてしまう」と悩んでいるなら、一度、今お使いの香水のボトルを手に取って、その「種類」を確認してみてください。
香水は、香料の濃度、すなわち「賦香率(ふこうりつ)」によって、いくつかのカテゴリーに分類されます。そして、この賦香率こそが、香りの持続時間に最も直接的に影響を与える要因なのです。
多くの初心者が陥りがちなのが、知らず知らずのうちに「持続時間の短い」カテゴリーの香水を選んでしまっているケースです。
例えば、軽やかでフレッシュな香りが多いため人気の「オードトワレ(Eau de Toilette / EDT)」や「オーデコロン(Eau de Cologne / EDC)」。これらは賦香率が低めに設定されており、そもそも香りが数時間で消えるように設計されているのです。



もしあなたが「香水がすぐ消える人」を本気で卒業したいのであれば、選ぶべきは「オードパルファン(Eau de Parfum / EDP)」あるいは「パルファン(Parfum)」です。これらは賦香率が高く、香りが5時間以上にわたって肌に留まるよう作られています。
以下の表で、その違いを明確に理解しましょう。
| 種類 (Type) | 賦香率 (Concentration) | 持続時間 (Duration) | 特徴 (Characteristics) |
|---|---|---|---|
| パルファン (Parfum) | 15% – 30% | 約 5 – 7 時間 | 最も濃度が高く、リッチで深みがある。持続性が非常に高い。 |
| オードパルファン (Eau de Parfum / EDP) | 15% – 20% | 約 5 – 6 時間 | 一般的な「香水」。持続性と香りのバランスが最も良い。 |
| オードトワレ (Eau de Toilette / EDT) | 5% – 15% | 約 3 – 4 時間 | 日常使いに適した軽い香り。持続時間はやや短め。 |
| オーデコロン (Eau de Cologne / EDC) | 2% – 5% | 約 1 – 2 時間 | リフレッシュ用。最も軽やかで、持続時間も最も短い。 |
また、香りの「構造(香りのピラミッド)」も理解しておく必要があります。香水は揮発速度の異なる香料で構成されており、トップノート(柑橘系など)、ミドルノート、ベースノート(ウッディ、アンバーなど)の順に香りが変化します。揮発しやすいトップノートだけを「香りが続いている」と認識していると、それが消えた時点で「香りが消えた」と誤解してしまいます。持続性とは、いかに「ベースノート」を豊かに長く香らせるかにかかっているのです。
あなただけが感じない?「嗅覚の順応」


「朝つけた香りが、お昼にはもう自分では感じられない。でも、周りの人からは『いい香りだね』と言われる」。こんな不思議な経験はありませんか?
もしそうなら、あなたの香水は「消えて」などいません。それは、あなたの「鼻が慣れた」だけなのです。
この現象は、専門的には「嗅覚の順応(または疲労)」と呼ばれます。私たちの脳は、生命の安全を守るために、常に新しい匂いや危険な匂い(煙、腐敗臭など)を警戒しています。しかし、ある匂いが「安全」で「常にそこにある」と判断すると、脳はその匂いを「重要でない情報」としてフィルターにかけ、意識的に感じさせなくするのです。
つまり、あなたが自分の香水の香りを感じなくなるのは、その香りがあなたの一部となり、あなたの脳が「これは安全で、あなたの香りだ」と認識してくれた証拠なのです。
「順応」によるつけ過ぎに注意
この「嗅覚の順応」は、香水愛好家が最も注意すべき落とし穴でもあります。自分では香りが消えたと感じるため、香水を何度もつけ過ぎてしまう(オーバースプレイ)のです。
自分では適量と思っていても、あなたの鼻が「順応」しているだけで、周りの人にとっては非常に強く、不快な「香り公害(スメルハラスメント)」になっている可能性があります。



香りが消えたと感じる原因が、肌の乾燥(物理的)なのか、賦香率(製品的)なのか、それとも嗅覚の順応(心理的・生物学的)なのか。これを見極めることが、あなたの悩みを解決する鍵となります。
香りを芸術に変える、持続の技術と選び方
- 纏う前の儀式:保湿という名の土台
- 脈打つ場所へ:手首をこすらない理由
- 香りを「着る」高度なテクニック
- 長く愛でるための保管方法とつけ直し
- マイスター厳選:長く続く香りの「香調」
- 物語を纏う:持続性で選ぶ傑作香水3選
纏う前の儀式:保湿という名の土台


「香水がすぐ消える人」の多くが「乾燥肌」であるという事実。であるならば、その解決策は至ってシンプルです。香りが「留まりたい」と思うような、潤った肌を準備すること。これに尽きます。
香水を纏うことを、単なる「スプレーする作業」から、「肌を整える儀式」へと昇華させましょう。
最も効果的なのは、シャワーやお風呂上がりの、肌が清潔で適度に水分を含んでいるタイミングです。肌が温まり、毛穴が開いているため、保湿剤が浸透しやすくなっています。
ここで重要なのは、使用する保湿剤です。香水の繊細な香りを邪魔しないよう、必ず「無香料(unscented)」のボディローションやクリームを選んでください。これを、香水をつける場所(手首、首筋、ひじの内側など)に丁寧に塗り込み、肌を柔らかく、しっとりと整えます。
さらに、フレグランスマイスターが推奨する、古くから伝わる裏技があります。それが「ワセリン(Vaseline)」の使用です。
マイスターズ・ハック:ワセリン・テクニック
- 香水をつけたいパルスポイント(手首や首筋)に、ごく少量のワセリンを薄く伸ばします。
- ワセリンは肌に蓋をする(オクルーシブ)効果があり、水分を閉じ込めます。
- このワセリンの「粘着性」のある層の上に香水をスプレーすると、香りの分子が油分にしっかりと付着し、揮発する速度を劇的に遅らせることができるのです。
より上級者向けのテクニックとして、「レイヤリング(重ねづけ)」があります。もしあなたのお気に入りの香水に、同じ香りのボディソープやボディローションがラインナップされている場合、それは単なるマーケティングではありません。
シャワーでその香りのボディソープを使い、次に同じ香りのローションで保湿し、最後に香水本体を纏う。こうすることで、香りの層がミルフィーユのように重なり合い、圧倒的な深みと持続性を生み出すのです。
乾いた大地が雨をすぐに吸い込んでしまうように、乾いた肌は香りをすぐに吸い込んでしまいます。香りのための「土台」作りを、ぜひ今日の夜から始めてみてください。
脈打つ場所へ:手首をこすらない理由


保湿という土台が整ったら、次はいよいよ香水を「置く」場所、すなわち塗布する場所です。香水の効果を最大化する場所、それは「パルスポイント(脈打つ場所)」と呼ばれます。
手首、首筋(うなじ)、耳の後ろ、ひじの内側、そして、ひざの裏。これらの場所は皮膚が薄く、太い血管が表面近くを通っているため、体温が他の部位よりも高くなっています。
この「熱」が、香水のアルコールを穏やかに揮発させ、香りの分子を効率よく空気中へと拡散させる「ディフューザー」の役割を果たしてくれるのです。
しかし、ここで多くの人が無意識に行ってしまう、「香水の纏い方における最大の過ち」が存在します。
それは、手首に香水をスプレーした後、両手首をゴシゴシと「こすり合わせる」行為です。
映画やドラマのワンシーンでよく見かけるこの仕草は、残念ながら、香水の芸術性を根底から破壊する行為にほかなりません。
なぜ手首を「こすって」はいけないのか?
理由は2つあります。第一に、摩擦による熱が香りの揮発を加速させるためです。香水は非常にデリケートなバランスで成り立っています。こすることで発生する余計な熱が、繊細なトップノートを早く揮発させてしまい、調香師が意図した香りの開花プロセスを阻害するのです。
第二に、そしてこれが最も重要な理由ですが、それは「香りの物語を台無しにする」からです。調香師(パフューマー)は、香りに「物語」を仕込みます。それが「トップノート」「ミドルノート」「ベースノート」という香りの変化(香りのピラミッド)です。トップノートは物語の序章であり、聴衆の心を掴むための重要な導入部です。
手首をこする行為は、この最も繊細なトップノートの揮発を加速させ、物語の「第一章」を読み飛ばすのと同じことなのです。



正しい纏い方は、「スプレーしたら、触らず、そのまま乾かす」。これが、香りの物語を最初から最後まで楽しむための、唯一の鑑賞マナーです。
香りを「着る」高度なテクニック


肌に直接纏うのが基本ですが、香りを「着る」という発想を持つことで、持続性はさらに高まります。これは、香りを「点」ではなく「面」で捉える、上級者向けのテクニックです。
まず、最も持続性が高い「キャンバス」は、実は肌ではなく「布地(ファブリック)」です。
特にコットンやウールなどの天然素材は、香りの分子を非常によく保持します。肌では2時間しか持たない香りが、スカーフやセーターの袖口では、翌日までふんわりと香り続けることも珍しくありません。スカーフ、ジャケットの裏地、コートの襟元などに軽くスプレーすることで、体温で温められた肌からの香りとは別に、もう一つの香りの源を作ることができます。
ただし、シルクなどのデリケートな素材や、色の薄い服は、シミになる可能性があるため、目立たない場所で試してからにしてください(。
次に有効なのが「髪」です。髪の毛は多孔質で香りを吸着しやすく、あなたが動くたびに、髪が揺れて香りを美しく拡散させてくれます。
しかし、香水に含まれるアルコールは髪を乾燥させる可能性があります。最も洗練された方法は、アルコールフリーの「フレグランス・ヘアミスト」を別途使用することです。もし香水本体を使いたい場合は、直接髪への接触を避け、衣類やスカーフ、または空間にスプレーしてその霧をくぐることが推奨されます。ヘアブラシへのスプレーは、ブラシを通じてアルコール成分が髪に接触する可能性があるため、あまり推奨されません。
最後に、香りの「纏う場所の戦略」です。香りは、下から上へと立ち昇る性質があります。
TPOに合わせた「香りの層」の作り方
- しっかり香らせたい日(デートやパーティー):
体温の高い上半身(首筋、手首)にしっかり纏い、華やかな印象を演出します。 - 柔らかく、上品に香らせたい日(オフィスや会食):
上半身を避け、あえて下半身(ひざの裏、足首)やウエストに香りを仕込みます。こうすることで、香りは直接的に鼻に届かず、あなたの動作に合わせて、床からふわりと柔らかく立ち昇ります。これは「あの人、いつもほのかに良い香りがする」という、最も知的で洗練された印象を与えるテクニックです。
香りを「どこに」「何に」纏うかを戦略的に使い分けることで、あなたは香りを自在に操る「指揮者」になれるのです。
長く愛でるための保管方法とつけ直し


「最近、お気に入りの香水の香りが変わった気がする」「前はもっと長持ちしたのに」。そう感じているなら、原因はあなたの肌ではなく、香水ボトルそのものにあるかもしれません。
香水は、あなたが思っている以上にデリケートな「生もの」です。特に、光、熱、そして湿度は、香水の天敵です。これらに晒されると、香水の繊細な化学組成は崩壊を始め、香りが変質したり、劣化したりします。
香水の保管場所として、最悪の環境はどこでしょうか?
警告:香水を「浴室(バスルーム)」に置いてはいけない
お風呂上がりにすぐ使えるからと、洗面台や浴室に香水ボトルをディスプレイしていませんか? それは、香水の「寿命」を自ら縮めているようなものです。
浴室は、家の中で最も「高温」で「多湿」な場所。毎日のシャワーや入浴で発生する急激な温度変化と湿気は、香水の成分を急速に破壊します。美しいボトルも、中身が劣化してしまっては意味がありません。
では、香水の「正しい寝床」はどこか。それは「冷暗所(クール、ダーク、ドライな場所)」です。
直射日光が当たらない、クローゼットの中や、ドレッサーの引き出しの中。そして、理想を言えば、香水が入っていた元の箱に戻して保管することです。箱は、光と急激な温度変化からボトルを守るために設計された、最良の「家」なのです。
どんなに完璧に保湿し、正しく纏い、適切に保管しても、EDTやEDCのように「消えることが運命づけられた」香りもあります。その場合、必要なのは「賢いつけ直し(リタッチ)」です。



その際、重たいフルボトルを持ち歩くのは現実的ではありません。ここで活躍するのが「アトマイザー(詰め替え用スプレー容器)」です。お気に入りの香りを少量移し替えて持ち歩けば、ランチの後や、仕事終わりの大切な予定の前に、スマートに香りをリフレッシュすることができます。これが、香りと上手に付き合う大人の嗜みです。
マイスター厳選:長く続く香りの「香調」


さて、ここまでは「どう纏うか」という技術の話をしてきました。ここからは、「何を選ぶか」という選び方の話をしましょう。「香水がすぐ消える人」は、そもそも「消えやすい」香調(ノート)を選んでしまっている可能性があります。
香りの持続性は、香りのピラミッドの土台となる「ベースノート」の香料によって、ほぼ決まります。軽やかなトップノート(シトラスやグリーン)は、物理的に分子が軽く、数分から数十分で揮発してしまいます。あなたが持続性を求めるなら、重く、揮発しにくい「ベースノート」にどんな香料が使われているかに注目すべきです。
持続性が高い香りの系統(フレグランス・ファミリー)は、主に以下の4つです。
- アンバー(Amber)系
温かく、甘く、官能的な印象を与えるアンバー系は、持続性の王様です。アンバー、バニラ、ベンゾイン(安息香)、ラブダナム、トンカ豆といった「樹脂(レジン)」や「バルサム」系の香料は、分子が非常に重く、肌の上に何時間も留まり続けます。秋冬や、ロマンティックな夜に最適です。 - ウッディ(Woody)系
サンダルウッド(白檀)、パチュリ、ベチバー、シダーウッドなど、木の香りで構成される系統です。落ち着きがあり、エレガントで知的な印象を与えます。これらの香料は、香り全体の「土台」として、他の香りをしっかりと支え、香水全体の持続性を高める役割を果たします。 - ムスク(Musk)系
柔らかく、パウダリーで、人間の肌そのもの(スキンセント)を思わせる香りです。ムスクは、それ自体が長く香るだけでなく、他の香料の揮発を遅らせ、香り全体を「丸く」まとめ上げる「フィクサティーブ(保留剤)」としての役割も持っています。 - オリエンタル(Oriental) / スパイシー系
アンバーやウッディの要素に加え、インセンス(お香)や、クローブ、シナモンなどのスパイスが加わった、エキゾチックで深みのある系統です。非常に個性的で、一度纏うと長く肌に残り、忘れられない印象を与えます。



香水を選ぶ際、ぜひベースノートの欄に以下のキーワードがあるかを確認してみてください。
| 香りの系統 (Family) | 持続性の高い香料 (Long-Lasting Notes) | 香りの印象 (Impression) |
|---|---|---|
| アンバー (Amber) | アンバー, バニラ, ベンゾイン (安息香), ラブダナム, トンカ豆 | 温かく、甘く、官能的でリッチ。秋冬に最適。 |
| ウッディ (Woody) | サンダルウッド (白檀), パチュリ, ベチバー, シダーウッド | 落ち着きがあり、エレガント。香りの土台を支える。 |
| ムスク (Musk) | ホワイトムスク, アンブレット | 柔らかく、肌になじむ。香りを全体的に長持ちさせる。 |
| オリエンタル (Oriental) | インセンス (お香), スパイス類, 樹脂 (レジン) | エキゾチックで深みがあり、個性的。 |
物語を纏う:持続性で選ぶ傑作香水3選


最後に、これまでの「肌科学」「技術」「香調」のすべてを踏まえ、フレグランスマイスターとして「持続性」と「物語性」を両立する3つの傑作を厳選してご紹介します。「香水がすぐ消える人」にこそ、試していただきたい逸品です。
1. Tom Ford “White Patchouli” (トム フォード ホワイト パチュリ)
【物語】「パチュリ」と聞くと、60年代のヒッピー文化を連想する、土臭く重い香りをイメージするかもしれません。しかし、トム・フォードが2008年に発表したこの作品は、その常識を覆しました。彼はパチュリの持つ官能的な側面はそのままに、ホワイトフラワーの輝きとコリアンダーのスパイスを加え、驚くほどモダンで、クリーン、かつシックな香りを生み出したのです。それは、黒のタキシードジャケットに身を包んだ、知的でミステリアスな女性像を彷”彿”とさせます。
【なぜ続くのか】この香水は「シプレー・フローラル」に分類されます。トップはベルガモットやピオニーで爽やかに始まりますが、その真価はベースノートにあります。パチュリ、インセンス(お香)、そしてウッディノート。「持続性の高い香調」で挙げた要素が、力強い「トライアングル」を形成しています。特にインセンスの燻るような深みが、パチュリと絡み合い、エレガントな余韻を一日中肌に残します。
2. Burberry “My Burberry Black” (バーバリー マイバーバリー ブラック)
【物語】この香りは、嵐が近づくロンドンの庭園が舞台です。降りしきる豪雨と、それにコントラストをなす温かく魅力的な植物の香り。この官能的でドラマティックな情景を、現代の天才調香師の一人、フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)が描き出しました。バーバリーのアイコンであるトレンチコートのように、肌に纏う「最後のコート」となるべく生み出された、濃密な香りです。
【なぜ続くのか】これは「オリエンタル・フローラル」の傑作です。トップに香るジャスミンの後、ミドルノートではピーチネクターと砂糖漬けのローズ(キャンディッド・ローズ)がとろけるように甘く香ります。そして、この香りを永遠に近いものにしているのが、ベースノートの「アンバー」と「パチュリ」です。アンバーの深い温かみと、パチュリのアーシーな(大地のような)力強さが、嵐の後の静かな庭園のように、官能的な物語を長く、長く肌の上で紡ぎ続けます。
3. Etat Libre d’Orange “Hermann à mes Côtés…” (エタリーブルドオランジェ ヘルマン…)
【物語】「ヘルマンは私のそばにいて、影のように思われた」。ヴィクトル・ユーゴーの詩から名付けられた、非常にコンセプチュアルな作品。これは、ニッチフレグランスブランドならではの「芸術」です。この香りが描くのは、霧深い森の中、あるいは冷たい雨がアスファルトを濡らす都会の情景。調香師クエンティン・ビッシュ(Quentin Bisch)は、ジオスミン(Geosmin)という「雨の後の土の匂い」の分子を使い、影、水、植物の気配といった、目に見えない「存在」を表現しました。
【なぜ続くのか】この香りは非常にアブストラクト(抽象的)でありながら、持続性が高いと評されています。その理由は、ベースノートの構成にあると考えられます。アンブロクサン(Ambroxan)やベチバーなどの強力な定着剤(フィクサティーフ)が香りの骨格を形成し、長時間の香り立ちを支えています。特にアンブロクサンは、アンバーグリス(龍涎香)のモダンな代替香料であり、非常に強力な定着力(フィックス力)を持ちます。この「影」は、あなたが洗い流すまで、静かに寄り添い続けるでしょう。
| 香水名 (Name) | ブランド (Brand) | タイプ (Type) | 持続性の鍵となるベースノート (Key Base Notes) |
|---|---|---|---|
| White Patchouli | Tom Ford (トム フォード) | Eau de Parfum | Patchouli (パチュリ), Incense (お香), Woody Notes (ウッディ) [1] |
| My Burberry Black | Burberry (バーバリー) | Eau de Parfum | Amber (アンバー), Patchouli (パチュリ) [2] |
| Hermann à mes Côtés… | Etat Libre d’Orange (エタリーブルドオランジェ) | Eau de Parfum | Ambroxan (アンブロクサン), Patchouli (パチュリ), Vetiver (ベチバー) [3] |
総括:「香水がすぐ消える人」を卒業し、香りを味方につけるために
この記事のまとめです。
- 香りがすぐ消える主な原因は肌の乾燥である
- 皮脂は香りの分子を肌に留める役割を持つ
- 乾燥肌は香水を素早く吸収し、揮発を早める
- 体温の高さや肌のpHバランスも香りの立ち方や持続性に影響する
- 香水を長持ちさせたいなら、賦香率の高い「オードパルファン(EDP)」か「パルファン」を選ぶべきである
- 「オードトワレ(EDT)」や「オーデコロン(EDC)」は、もともと持続時間が短く設計されている
- 香りを纏う前の「保湿」が持続の鍵であり、無香料の保湿剤が推奨される
- ワセリンを薄く塗った上にスプレーすると、香りの揮発を遅らせることができる
- 香水を手首でこすり合わせる行為は、摩擦熱で香りの分子を破壊し、トップノートを台無しにする
- パルスポイント(手首、首筋、ひざ裏)は体温が高く、香りを効率よく拡散させる
- 衣服や髪の毛は、肌よりも香りが長く留まる傾向がある
- 下半身(ひざ裏、足首)につけると、香りは下から上へ柔らかく立ち昇る
- 同じ香りを嗅ぎ続けると、脳が「嗅覚の順応」を起こし、香りを感じにくくなる
- 香水は光、熱、湿気に弱く、浴室での保管は最悪である
- 持続性を求めるなら、ベースノートに「アンバー」「ウッディ」「ムスク」「パチュリ」を含む香水を選ぶと良い










