「仕事で香水をつけるのは非常識だろうか?」そう迷った経験はありませんか。職場は多様なバックグラウンドを持つ人々が集まる空間であり、身だしなみとしての配慮が求められる一方で、適切な香りはあなた自身のプレゼンスを高め、ビジネスにおける強力な武器にもなり得ます。
清潔感のある香りは第一印象を劇的に良くし、知的な香りは信頼感を醸成します。そして何より、お気に入りの香りを纏うことは、忙しい業務の中での心のスイッチとなり、パフォーマンスを向上させるのです。
この記事では、周囲への配慮(マナー)を徹底しつつ、ビジネスシーンであなたの魅力を最大限に引き出す「仕事のための香水」の選び方と活用術を、フレグランスマイスターの視点で徹底解説します。
この記事のポイント
- ビジネスシーンで好感度を高める香水の選び方と基本マナーが理解できる
- 「香害」を防ぐための適切な付ける場所と量、リタッチ方法がわかる
- 職種や目的に合わせた香りの系統(シトラス、サボン、ウッディ)を知ることができる
- 集中力アップやストレス軽減など、仕事の効率を高める香りの効果を学べる
仕事で香水をつける際のマナーと選び方
- オフィスで好感度が高い香りの種類とは
- 香害を防ぐための正しい付け方と場所
- 職種別のおすすめ香水濃度(オードトワレ他)
- ランチ後の付け直しとリフレッシュテクニック
オフィスで好感度が高い香りの種類とは

ビジネスシーンにおいて最も重視すべきは「清潔感」と「透明感」です。オフィスは個人のプライベートな空間ではなく、チームで成果を上げるための公的な場所です。そのため、個性が強すぎる香りや、甘さが濃厚すぎるグルマン系(バニラやチョコレートなど)、動物的なニュアンスの強いアニマリックな香りは避けるのが鉄則です。
これらは嗅覚への刺激が強く、人によっては不快感や頭痛の原因となる可能性があるからです。特に湿度が高い日本のオフィス環境では、重たい香りは空気が滞るような不快さを招きかねません。
では、具体的にどのような香りが好まれるのでしょうか。以下の表にビジネス向きの香りと避けるべき香りを整理しました。
| 香りの系統 | ビジネス適性 | 与える印象・特徴 |
|---|---|---|
| サボン(石鹸) | ◎ | 洗い立てのシャツ、清潔感、誠実さ |
| シトラス(柑橘) | ◎ | フレッシュ、活動的、親しみやすさ |
| グリーンティー | ◎ | 知的、冷静、落ち着き、リラックス |
| ハーバル(ハーブ) | ◯ | クール、仕事ができる、集中力 |
| フローラル(甘口) | △ | 華やかすぎる場合あり、種類を選ぶ |
| グルマン(菓子) | × | 幼稚、公私混同、甘ったるい |
| スパイシー | × | 刺激が強い、好みが分かれる |
万人に愛されるのは「サボン(石鹸)」や「ホワイトムスク」といった、清潔な空気が漂っているような印象を与える香りです。また、「シトラス(柑橘)」系もビジネスの王道です。
レモン、ベルガモット、グレープフルーツなどの香りは、リフレッシュ効果が高く、周囲に明るく活動的な印象を与えます。さらに、近年注目されているのが「グリーンティー」や「紅茶」などのティーノートです。
これらは知的で落ち着いた雰囲気を演出し、デスクワーク中心の静かなオフィス環境にも非常によく馴染みます。重要なのは、香りを「主張」させるのではなく、あなたの佇まいを「補完」するものとして選ぶという意識です。
香害を防ぐための正しい付け方と場所

「スメルハラスメント(香害)」という言葉が定着して久しい現在、香水を纏う場所と量には細心の注意が必要です。自分では「ほのかに香っている」つもりでも、人間の嗅覚はすぐに順応(麻痺)してしまうため、周囲には強く漂っていることが多々あります。
特に体温が高い首筋や手首は、脈打つたびに香りが強く拡散しやすいため、ビジネスシーン、特に会議や商談がある日は避けるべきエリアです。顔に近い位置につけると、食事の邪魔になったり、相手との距離が近づいた際に不快感を与えたりするリスクが高まります。
仕事において最適な香水を付ける場所は、「ウエスト(お腹周り)」から下です。具体的には、ウエストの両サイド、太ももの内側、膝の裏、あるいは足首です。香りは下から上へと立ち昇る性質があるため、下半身に付けることで、動いた時やふとした瞬間にふわりと柔らかく香るようになります。これこそが、エレガントで配慮の行き届いた大人の纏い方です。
絶対にやってはいけない付け方
- 出勤直前に手首につけてこすり合わせる:香りの粒子が壊れ、トップノートが飛び、鋭い匂いになってしまいます。
- 衣服の上から吹きかける:シミの原因になるだけでなく、体温で温まらないため香りの変化(立ち上がり)が綺麗に出ません。
- 汗をかいたまま重ね付けする:汗の臭いと香水が混ざり、悪臭の原因になります。
また、スプレーのプッシュ数も重要です。オードトワレであれば1〜2プッシュ、より濃度の高いオードパルファムであれば1プッシュ、あるいは空中にスプレーしてその下をくぐる「ミスト使い」をおすすめします。
「香水は、相手との距離が50センチ以内に近づいた時に初めて気づかれる程度」が、ビジネスにおける黄金律であることを忘れないでください。
職種別のおすすめ香水濃度(オードトワレ他)

香水には賦香率(ふこうりつ)と呼ばれる香料の濃度によって種類があり、持続時間や香りの強さが異なります。自分の職種や勤務スタイルに合わせて適切な濃度を選ぶことが、香水選びの成功の鍵となります。
以下の表を目安に、自分のワークスタイルに合ったタイプを選定しましょう。
| 種類 | 濃度(賦香率) | 持続時間 | おすすめの職種・シーン |
|---|---|---|---|
| オーデコロン (EDC) | 3〜5% | 1〜2時間 | 医療従事者、接客業、リフレッシュ目的 |
| オードトワレ (EDT) | 5〜10% | 3〜4時間 | 一般的な事務職、営業職、外回り |
| オードパルファム (EDP) | 10〜15% | 5時間〜 | クリエイティブ職、アパレル、役員クラス |
まず、一般的なオフィスワークや営業職の方に最もおすすめなのが「オードトワレ(EDT)」です。香りの持続時間は3〜4時間程度と短めですが、立ち上がりが軽やかで、重苦しさがありません。午前中で香りが消えかけるため、ランチ後に気分転換に付け直すというリズムも作りやすいのが特徴です。
一方、長時間の会議が続く管理職や、頻繁に付け直しができない医療従事者や接客業の方(香水が許容される環境の場合)には、よりさらに軽い「オーデコロン(EDC)」や、アルコールを使わない「水性香水」が適しています。これらは持続時間が極めて短いものの、肌への馴染みが非常に良く、香りが突出することがありません。逆に、クリエイティブ職やファッション業界など、個性の表現が求められる職場では「オードパルファム(EDP)」も選択肢に入ります。ただし、オードパルファムは少量でも長く強く香るため、付ける量は「半プッシュ」または「ウエスト以下の見えない場所」にごくわずかに留める必要があります。最近では「スキンパルファム」と呼ばれる、肌の匂いと一体化するような淡い設計のオードパルファムも登場しています。
ランチ後の付け直しとリフレッシュテクニック

午前中の業務を終え、ランチタイムを挟んだ後の午後の業務に向けて、香りは素晴らしいスイッチの役割を果たします。特に午後2時から3時頃の、眠気や疲れが出やすい時間帯に香りの力を借りることは、生産性維持に非常に有効です。
しかし、ここでやりがちな失敗が、汗や食事の匂いが残っている状態で香水を重ね付けしてしまうことです。これは香りのバランスを崩し、不快な混ざり香(不協和音)を生む原因となります。
リタッチを行う前の鉄則は、まず「肌を無臭化すること」です。
- 拭き取り: 無香料の汗拭きシートやウェットティッシュで、首筋や腕、付け直したい部位の汗や皮脂をしっかりと拭き取ります。
- 部位を変える: 肌をクリアな状態にしてから、朝とは異なる部位、例えば足首や膝裏に1プッシュだけ纏います。鼻から遠い場所に付けることで、自分自身も酔うことなく、さりげなく香りを楽しめます。
また、上級者テクニックとしておすすめなのが「香りのレイヤリング(重ね付け)」を意識した切り替えです。例えば、朝は爽やかなシトラス系でスタートして活発な印象を与え、午後は集中力を高めるためにウッディ系やハーブ系の香りを足元に纏うといった方法です。
同じ香りを重ねるとどうしても匂いが濃くなりがちですが、系統の違う香りを足すことで、気分を一新できます。ボトルを持ち歩くのが荷物になる場合は、アトマイザーに移し替えるか、練り香水(ソリッドパフューム)を活用すると良いでしょう。
練り香水は拡散力が低く、自分のパーソナルスペースだけで香りを楽しめるため、デスクでの塗り直しにも最適です。
仕事のパフォーマンスを高めるおすすめ香水
- 清潔感を演出する石鹸・サボン系の香り
- 集中力を高めるシトラス・ハーバル系の香り
- 信頼感と落ち着きを与えるウッディ系の香り
- 女性らしさと知性を両立するフローラルノート
- メンズにも推奨したいユニセックスフレグランス
清潔感を演出する石鹸・サボン系の香り

「清潔感」はビジネスにおける最強の武器であり、どんな相手にも好印象を与える万能な要素です。サボン(石鹸)系の香りは、幼い頃から馴染みのある香りであり、安心感と信頼感を同時に醸成します。
このカテゴリーで特におすすめしたいのが、お風呂上がりのような温かみとピュアな爽やかさを併せ持つ香りです。具体的には、ホワイトムスク、スズラン(ミュゲ)、そして「アルデヒド」と呼ばれる、スチームアイロンをかけた後のシャツのようなニュアンスを持つ香料がキーとなります。
代表的なアイテムとして、SHIROの「サボン」シリーズが挙げられます。日本のブランドらしく、湿度の高い気候にも合う軽やかさが特徴で、柔軟剤のように優しく香るため、香水初心者や厳しいオフィス環境での使用に最適です。また、メゾン・マルジェラの「レプリカ オードトワレ レイジーサンデーモーニング」も外せません。洗い立てのリネンシーツをイメージさせるこの香りは、清潔感の中に洗練された都会的なニュアンス(パチョリやホワイトムスク)を感じさせます。
これらの香りの素晴らしい点は、つけている本人もリラックスできることです。緊張感のあるプレゼン前や、初対面のクライアントとの打ち合わせなど、心を落ち着けつつ相手に「きちんとした人」という印象を与えたい場面で、これ以上ない味方となってくれるでしょう。
あくまで自然で、わざとらしさのない清潔感を身に纏うことは、言葉以上の自己紹介になります。
集中力を高めるシトラス・ハーバル系の香り

デスクワークで頭が疲れた時や、締め切り前の集中力が必要な時、香りは脳へのダイレクトな刺激となってパフォーマンスを支えます。特に、レモン、グレープフルーツ、ベルガモットといったシトラス(柑橘)系や、ローズマリー、ペパーミント、バジルなどのハーバル(ハーブ)系の香りには、交感神経を刺激し、頭をスッキリと覚醒させる効果が期待されています。
科学的にも、レモンの香りがタイピングミスを減らすという研究結果があるほど、仕事と香りの関係は密接です。
このカテゴリーでおすすめなのは、単なる「レモンの匂い」ではなく、果皮の苦味やハーブの青々しさをブレンドした、大人向けの奥行きのある香りです。
- イソップ(Aesop)「タシット」: ユズとバジルが絶妙に調和し、現代的で知的な印象を与えます。甘さが一切ないため、男性がつけても非常にスマートで、「仕事ができる人」の空気を演出します。
- ジョー マローン ロンドン「ライム バジル & マンダリン」: 刺激的なバジルとホワイトタイムが意外性を加え、クリエイティブな発想を促してくれます。
これらの香りは揮発性が高く、香りが長時間残りすぎない点もビジネス向きです。「ここぞ」という時にワンプッシュすることで、脳のスイッチをオンにするアンカー(条件付け)として活用するのも非常に効果的なテクニックです。
信頼感と落ち着きを与えるウッディ系の香り

リーダーシップを発揮したい場面や、部下からの相談を受ける時、あるいは重要な契約の場では、軽やかさよりも「重厚感」や「揺るぎない安定感」が求められます。そのようなシーンで力を発揮するのが、サンダルウッド(白檀)、シダーウッド、ヒノキ、ベチバーなどをベースにしたウッディ系の香りです。
樹木の香りは、地に足がついた(グラウンディングされた)印象を与え、相手に安心感と信頼感をもたらします。また、鎮静効果も高いため、自分自身のストレスレベルを下げ、冷静な判断を下す助けにもなります。
ただし、ウッディ系は重くなりすぎると「おじさんっぽい」あるいは「古風なお香」と思われてしまうリスクもあります。ビジネスで選ぶなら、ドライでモダンなウッディノートを選びましょう。
- ディプティック「タムダオ」: サンダルウッドのクリーミーさとシダーのドライさが絶妙なバランスで、森林浴をしているかのような静寂を感じさせます。媚びない姿勢を示したい時に最適です。
- エルメス「テールのエルメス」: ウッディに柑橘やミネラル(火打石)のニュアンスを加えた名香です。大地のような包容力と空のような広がりを感じさせ、デキるビジネスパーソンの象徴とも言えます。
秋冬のシーズンや、スーツスタイルを格上げしたい時に、ぜひ取り入れていただきたい系統です。これらの香りは、若手社員よりも、ある程度キャリアを積んだ中堅〜管理職の方にこそ似合う、風格のある香りと言えるでしょう。
女性らしさと知性を両立するフローラルノート

「職場でフローラル(花)の香りは甘すぎてNGではないか?」と懸念される方も多いですが、選び方次第で、フローラルは知性と柔らかさを兼ね備えた最高のビジネスフレグランスになります。避けるべきは、砂糖菓子のような甘ったるいフローラルや、濃厚すぎるホワイトフローラル(ジャスミンやチュベローズの強いもの)です。仕事で選ぶべきは、「グリーンフローラル」や「シトラスフローラル」と呼ばれる、葉や茎の青さ、あるいは柑橘の爽やかさを伴った花の香りです。
特におすすめなのが、アイリス(アヤメ)やネロリ(ビターオレンジの花)を使った香りです。アイリスはパウダリーで知的な印象を与え、古くから王侯貴族に愛されてきた高貴な香料です。
- プラダ「インフュージョン ドゥ プラダ イリス」: アイリスの清涼感と石鹸のような清潔感が融合しており、凛とした女性像を演出します。シャツスタイルに抜群に合います。
- ポール・スミス「ローズ」: ローズを選ぶ場合、ジャムのように甘いものではなく、この香水のように「朝露に濡れた生花」に近いフレッシュなものを選びましょう。
こうした香りは、周囲に媚びることなく、自分自身の芯の強さと優雅さを表現してくれます。オフィスカジュアルな服装の日でも、香りで「きちんと感」をプラスすることができるのです。
「甘い」ではなく「美しい」と表現されるような香りを目指しましょう。
メンズにも推奨したいユニセックスフレグランス

近年、香水の世界では「ジェンダーレス」がスタンダードになりつつあります。かつてのような「男性は強いフゼア系(整髪料のような香り)、女性は甘いフローラル系」という垣根は取り払われ、自分の感性や演出したいイメージに合わせて香りを選ぶ時代です。
特にビジネスシーンにおいては、男性がユニセックスな香り、あるいは女性向けとされる香りを纏うことで、物腰の柔らかさや洗練された感性をアピールできるケースが増えています。
威圧感を消し、コミュニケーションを円滑にする効果も期待できます。
例えば、エルメスの「ナイルの庭」のようなグリーンマンゴーとロータス(蓮)の香りは、男女問わず愛される傑作であり、男性がつけると非常に爽やかで知的に映ります。水辺を連想させる透明感は、夏のビジネスシーンに清涼感を運びます。また、昨今人気を博している「紅茶系」の香りも、メンズにおすすめです。ジョー マローン ロンドンの「アールグレイ & キューカンバー」などは、英国紳士のような遊び心と品格を感じさせます。
逆に、女性がメンズライクなウッディやスパイスの効いた香りを纏うことで、自立した強さを演出することも可能です。重要なのは「男らしい・女らしい」ではなく、「自分らしい・仕事のプロフェッショナルとしてふさわしい」香りかどうかです。
固定観念を捨てて、さまざまな香りを肌に乗せてみてください。きっと、あなたのビジネスパートナーとなる運命の一本が見つかるはずです。
総括:仕事の香水選びは「マナー」と「演出」の両立が成功の鍵
この記事のまとめです。
- ビジネスシーンでの香水は「清潔感」と「透明感」が最優先である
- 濃厚なグルマン系やアニマリックな香りはオフィスでは避ける
- 万人受けするのはサボン系、シトラス系、グリーンティー系の香り
- 香水をつける最適な場所は「ウエストから下」で、ほのかに香らせる
- 上半身への塗布は香りが強くなりすぎるため、仕事中は避ける
- スプレー回数は1〜2プッシュ、または空中に吹いてくぐるのが適量
- オードトワレは3〜4時間持続し、オフィスワークに使いやすい濃度
- 長時間の勤務や接客業には、より軽いオーデコロンや水性香水が適している
- 集中力を高めたい時はレモンやローズマリーなどのハーブ系が有効
- 信頼感やリーダーシップを演出するにはサンダルウッド等のウッディ系が良い
- 付け直しは必ず汗を拭き取ってから行い、不快な混ざり香を防ぐ
- リタッチの際は、朝とは違う香りを足元に重ねるレイヤリングも効果的
- フローラル系を選ぶなら、甘さ控えめのアイリスやグリーンフローラルにする
- ジェンダーレスな香りは、物腰の柔らかさや洗練された印象を与える
- 香りは自分自身のスイッチとなり、仕事のパフォーマンスを向上させるツールになる
香道Lab.









