ゲランの香水は人気ない？誤解される3つの理由と本物を知る大人の選び方

URLをコピーしました！

「ゲランの香水は、少し古臭い気がする」「人気がないからやめておいた方がいい？」もしあなたが今、そんな不安を感じて検索窓にキーワードを打ち込んだのなら、安心してください。

その感覚は、ある意味で正解であり、同時に非常にもったいない誤解でもあります。1828年の創業以来、香水界の女王として君臨するゲラン。しかし、その重厚で複雑な香りは、清潔感やわかりやすさを重視する現代のトレンドとは少し距離があるのも事実です。

この記事では、なぜゲランが「人気ない」と囁かれてしまうのか、その理由をプロの視点で徹底解剖します。そして、一見とっつきにくい「おばさんっぽい」香りの奥に隠された、涙が出るほど美しい物語と、あなたを格上げする「運命の一本」の選び方をご紹介します。

読み終える頃には、あなたはきっと、流行に流されるだけの香水選びを卒業し、自身の肌で芸術を纏う喜びに目覚めているはずです。

この記事のポイント

ゲランが「人気ない」と言われる背景にある、現代トレンドとの決定的な違い
「おばさん臭い」と敬遠されがちな香りの正体と、それがもたらす心理的効果
初心者でも失敗しない、現代的な軽やかさと伝統を融合させたラインナップ
まるでオートクチュールのように、自分だけの魅力を引き出す香水の選び方

ゲランの香水が「人気ない」と誤解される3つの理由と真実

時代を超える「ゲルリナーデ」の重厚感と現代のトレンド
「おばさんくさい」と言われてしまう香りの正体とは
敷居が高い？カウンターでの体験と価格設定の背景
流通量の多さと希少性が生むパラドックス

時代を超える「ゲルリナーデ」の重厚感と現代のトレンド

「ゲランの香水は重たい」。これは、ゲランを初めて試した多くの人が口にする言葉であり、同時に「人気がない」と誤解されてしまう最大の要因でもあります。しかし、この「重さ」こそが、ゲランが約200年にわたり守り抜いてきた魂、「ゲルリナーデ（Guerlinade）」なのです。

現代の香水トレンドを見渡してみると、主流は圧倒的に「軽やかさ」と「透明感」です。洗い立てのシーツのようなサボン系、もぎたての果実のようなフルーティー系、あるいは肌に馴染んで消えてしまいそうなスキンセント。

これらは誰からも好かれ、オフィスでも邪魔にならず、SNS映えするわかりやすい魅力を持っています。私たちは、清潔であることを強迫的に求められる時代に生きており、香りに対しても「無臭」に近い清潔感を求める傾向があります。

また、つけた瞬間から香りが変わらない「リニア」な香水が好まれるのも、忙しい現代人のライフスタイルを反映しています。

これに対し、ゲランの香りの核となる「ゲルリナーデ」は、以下の6つの天然香料から構成される、極めて濃厚で官能的なアコード（調和）です。

スクロールできます

香料	特徴と役割
ベルガモット	ゲランらしいフレッシュで華やかな幕開けを告げる輝き
ローズ	華麗さと情熱を象徴する、香りの女王
ジャスミン	濃厚で動物的な官能性を秘めた白い花
トンカビーン	アーモンドのようなパウダリーな甘さと温かみ
アイリス	パウダリーでウッディ、知的で高貴な余韻を残す
バニラ	ゲランの代名詞とも言える、包容力のある甘美な香り

これらは単なる香りの足し算ではありません。肌の上で温められ、時間をかけてゆっくりと花開き、まるで交響曲のように複雑なハーモニーを奏でるように計算されています。トップノートからラストノートまで、ドラマティックに表情を変えていくその様は、まさに時間の芸術です。

現代のトレンドが「BGMのような聞き流せるポップス」だとするなら、ゲランの香りは「コンサートホールで聴くクラシック音楽」です。その複雑さと情報量の多さは、慣れていない人にとっては「うるさい」「難解だ」と感じられるかもしれません。

しかし、それは人気がないからではなく、時代が求める「即効性」や「手軽さ」とは異なる次元で、香水という芸術を追求しているからに他なりません。ゲランは流行を追うのではなく、時代を超越したスタイルを貫いているのです。

その姿勢が、今のライトなトレンドと一時的な摩擦を起こしているだけなのです。

現代のトレンドとゲランの違い

トレンド: 軽やか、透明感、変化が少ない、清潔感重視。
ゲラン: 重厚、複雑、劇的な変化、官能性と芸術性重視。

「おばさんくさい」と言われてしまう香りの正体とは

SNSや口コミサイトで、ゲランの名香『ミツコ』や『シャリマー』に対して「おばさんくさい」「お仏壇の匂いがする」という感想を見かけることがあります。香水を愛する者として、これは非常に胸が痛む表現ですが、同時に、なぜそう感じてしまうのか、その嗅覚のメカニズムも理解できます。

この「おばさんくさい」という印象の正体は、主に「パウダリーノート」と「シプレ（オークモス）」、そして「インセンス（お香）」の要素にあります。かつて、日本の高度経済成長期やバブル期に、多くの大人の女性たちがこぞってゲランのような本格的な香水を纏っていました。

また、当時流行した高級な化粧品（おしろい）には、アイリスやヘリオトロープといったパウダリーな香料が多用されていました。

そのため、今の20代、30代の方々にとって、これらの香りは「子供の頃に嗅いだ、母親や祖母の鏡台の匂い」あるいは「参観日の教室の匂い」として記憶に刻まれているのです。これを「プルースト効果」と呼びますが、脳の記憶中枢（海馬）と嗅覚は直結しているため、この香りを嗅いだ瞬間に「古い」「年配の人」というレッテルを無意識に貼ってしまいます。これが「おばさんくさい」という言葉の正体であり、香りの質そのものの良し悪しとは別の問題なのです。

しかし、視点を変えてみてください。「お仏壇の匂い」と揶揄されるその香りは、最高級のサンダルウッド（白檀）や没薬（ミルラ）がふんだんに使われている証拠です。これらは心を深く鎮め、瞑想的な静寂をもたらす効果があり、実は現代のストレス社会において最も求められている「癒やし」の香りでもあります。

実際、近年のニッチフレグランス界では、こうしたウッディやインセンスの香りが「精神性を高める香り」として再評価され、トレンドになっています。

また、パウダリーな甘さは、包容力や母性、そして揺るぎない品格を表現します。若い頃はフレッシュなフルーツの香りが似合っても、年齢を重ね経験を積んだ肌には、果実のような単純な甘さよりも、複雑でドライな甘さの方が美しく響くのです。「おばさんくさい」のではなく、それは「成熟した大人の女性にしか許されない、特権的な香り」なのです。この香りを纏いこなすことは、大人の階段を上る儀式のようなものだと言えるでしょう。

敷居が高い？カウンターでの体験と価格設定の背景

「ゲランのお店は入りにくい」「店員さんが怖そう」。そんな声も、ゲランが一部で「人気がない（とっつきにくい）」とされる理由の一つです。白やゴールドを基調とした煌びやかなカウンター、黒い制服に身を包んだプロフェッショナルなスタッフたち。

ドラッグストアやバラエティショップで気軽にセルフで香水を試せる環境に慣れた世代にとって、ゲランのブティックはあまりにも「本気」すぎて、足がすくんでしまうのも無理はありません。

さらに、価格設定もその敷居の高さに拍車をかけています。後述するプレミアムライン『ラアールエラマティエール』は、1本で4万円台から、高いものでは8万円以上という価格帯です。

「香水にそこまでお金をかけられない」という一般的な感覚からすれば、これは驚くべき金額でしょう。

しかし、この価格には明確な理由があります。ゲランは、香料の質の維持に対して異常なまでの執着を持っています。例えば、ジャスミン一つとっても、特定の地域の特定の時期に収穫されたものしか使わないなど、その基準は厳格そのものです。

また、多くのブランドが香料会社に調香を外注する中、ゲランは社内に専属調香師（現在はティエリー・ワッサーとデルフィーヌ・ジェルク）を抱え、伝統の継承と革新を自社で行っています。

彼らは世界中を飛び回り、最高の素材を自らの手で調達しています。この「中間マージンをかけず、素材そのものにお金をかける」姿勢こそが、ゲランの品質を支えているのです。

カウンターでの接客もまた、単なる販売ではありません。彼らは「フレグランスコンサルテーション」という特別なトレーニングを受けており、お客様の服装、好み、ライフスタイル、そして言葉にできない雰囲気から、最適な一本を導き出すプロフェッショナルです。iPadを用いた独自の診断ツールを使ったり、ムエット（試香紙）だけでなく扇子を使って空中に香りを漂わせたりと、その体験はエンターテインメントそのものです。

あの緊張感は、あなたという人間に真剣に向き合おうとする姿勢の表れでもあります。ネットで手軽にポチるのではなく、カウンターで対話し、自分の肌に乗せて変化を確認する。

このプロセスそのものが、ゲランというブランド体験の一部なのです。「高い」「入りにくい」と敬遠する前に、その敷居の向こう側には、自分を大切に扱う極上の時間が待っていることを知っていただきたいです。

それは決して無駄な出費ではなく、自分自身への投資なのです。

香道Lab.

最初は勇気がいりますが、一度座ってしまえば、そこは香りの天国です。スタッフの方は香りの知識が豊富なので、話を聞くだけでも楽しめますよ。

流通量の多さと希少性が生むパラドックス

ここで少し面白いパラドックスについてお話ししましょう。実は、ゲランは「知る人ぞ知るニッチなブランド」ではありません。世界中の空港の免税店や、主要なデパートには必ずと言っていいほど店舗があります。

歴史的な名香『シャリマー』などは、世界で最も売れた香水の一つとして数えられるほどの知名度を誇ります。

それなのに、なぜ「人気がない」と感じられるのでしょうか？それは、流通量が多すぎるがゆえに、「特別感」を感じにくいという層がいること、そして「どこでも売っている＝ありふれた古いもの」というバイアスがかかっていることが挙げられます。

特に最近のフレグランス市場では、「誰とも被らない香り」を求める傾向が強まり、新興のニッチフレグランスブランド（小規模生産で高価格なブランド）がもてはやされています。

「ルラボ」や「バイレード」といったブランドがお洒落な人々のアイコンとなり、逆に老舗であるゲランは「王道すぎてつまらない」と見なされてしまうことがあるのです。いわゆる「メジャーなものよりマイナーなものを好む」という心理が働いています。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。ゲランほど、ラインナップの幅が広く、かつ奥深いブランドは他に存在しません。免税店でよく見る『アクアアレゴリア』のような親しみやすいラインがある一方で、一部の限られた店舗でしか手に入らないエクスクルーシブなコレクションも存在します。

実は、ゲランは「マス（大衆）」向けの製品と、「プレステージ（特権的）」な製品を見事に使い分けているのです。

つまり、ゲランは「大衆的な人気」と「圧倒的な希少性」の両方を併せ持っている稀有なブランドなのです。「人気がない」のではなく、あまりにも巨大で多面的すぎるがゆえに、その全貌が見えにくくなっているだけなのかもしれません。

表面的なイメージだけで「古いブランド」と判断してしまうのは、あまりにも早計です。ゲランの中には、まだあなたが知らない、驚くほど前衛的でユニークな香りが必ず眠っています。

それを掘り起こす作業こそが、香水好きにとっての至福の探検となるはずです。

むしろ今こそ纏いたい！ゲランの魅力を再発見する選び方

初心者でも失敗しない「アクアアレゴリア」の軽やかな魔法
名香「ミツコ」「シャリマー」を現代風に纏うテクニック
至高のプレミアムライン「ラアールエラマティエール」の世界
自分だけの物語を紡ぐための運命の一本の探し方

初心者でも失敗しない「アクアアレゴリア」の軽やかな魔法

もしあなたが「ゲランに挑戦したいけれど、失敗するのが怖い」「重たい香りは苦手」と感じているなら、迷わず『アクアアレゴリア』コレクションから扉を開いてください。1999年に誕生したこのシリーズは、ゲランの伝統的な重厚さを良い意味で裏切り、「自然の美しさ」をそのままボトルに閉じ込めたような、驚くほどフレッシュで軽やかな香りが特徴です。

『アクアアレゴリア』の最大の魅力は、そのシンプルさと素材の良さにあります。例えば、日本でも不動の人気を誇る『マンダリンバジリック』は、弾けるようなマンダリンオレンジにバジルの苦味が効いた、快活で洗練された香りです。また、『ペラグラニータ』は、ジューシーな洋ナシとキンモクセイが溶け合う、まるでとろけるようなデザートの香り。これらは決して「おばさんくさい」とは言わせない、モダンで明るいエネルギーに満ちています。

さらに特筆すべきは、2025年現在の『アクアアレゴリア』は、環境への配慮が徹底されている点です。最大95%の天然由来成分を配合し、使用されているアルコールは「有機栽培のビーツ（甜菜）」から作られています。これは、環境負荷を減らし、持続可能な農業を支援するためのゲランの革新的な取り組みの一つです。ボトルもリサイクルガラスを15%以上使用し、ポンプを取り外して詰め替え（リフィル）が可能な仕様になっています。

つまり、この香水を纏うことは、単にいい香りをさせるだけでなく、サステナブルな未来を選択するという意思表示にもなるのです。使い方も非常に自由です。賦香率（香りの濃度）がオーデトワレなので重くなりすぎず、朝のシャワーの後や、気分転換したい午後にたっぷりとスプレーしても、周りを不快にさせることはありません。

また、このコレクションは複数の香りを重ねづけする「ミクソロジー」も推奨されており、自分だけのオリジナルの香りを作る楽しみもあります。ゲランというブランドの「品質」はそのままに、Tシャツとデニムで過ごすような日常に寄り添ってくれる。

それが『アクアアレゴリア』の魔法です。まずはここから、ゲランへの偏見を解いてみてはいかがでしょうか。

名香「ミツコ」「シャリマー」を現代風に纏うテクニック

さて、いよいよ本丸です。ゲランを語る上で避けては通れない、100年の歴史を持つ名香『ミツコ』や『シャリマー』。これらを「古臭い」と敬遠せず、現代のファッションに合わせて粋に纏いこなすことができれば、あなたの香水偏差値は一気に跳ね上がります。

ポイントは「纏う場所」と「量」、そして「レイヤリング」です。

まず、これらのクラシックな香水は、現代の香水に比べて香りが非常に強く、拡散力も高いことを理解してください。手首や首筋といった、体温が高く鼻に近い場所に直接スプレーするのは避けましょう。おすすめは「ウエスト」や「足首」「膝の裏」です。洋服を着る前に、下半身にワンプッシュだけ纏う。香りは下から上へと立ち昇る性質があります。こうすることで、香りは洋服というフィルターを通して柔らかく立ち上がり、動いた時にだけふわりと漂う、上品な「残り香」となります。「あれ？なんかいい匂いがする」と相手に思わせる、この焦らしこそがエレガンスです。

また、これらの名香が持つ「重さ」を、現代的な軽やかさで中和するテクニックもあります。例えば、『シャリマー』の濃厚なバニラとレザーの香りに、先ほど紹介した『アクアアレゴリア』の柑橘系（ベルガモットやマンダリンなど）を重ねてみてください。

トップノートにフレッシュさが加わり、クラシック特有のパウダリーさが軽減され、驚くほどモダンな表情を見せてくれます。これは邪道ではありません。香りの構造を知り尽くした上級者が楽しむ、新しい遊び方です。

そして何より大切なのは、マインドセットです。『ミツコ』は、世界で初めてピーチの香りを取り入れたシプレの傑作であり、控えめでありながら芯の強い女性を表現しています。

これを纏う日は、背筋を伸ばし、あえてシンプルな白シャツやトレンチコートに合わせてみてください。クラシックな香りを、ヴィンテージのアクセサリーを身につけるような感覚でファッションの「外し」として使うのです。

歴史ある香りを現代の文脈で再解釈して纏うことこそ、真に洗練された大人のスタイルと言えるでしょう。

至高のプレミアムライン「ラアールエラマティエール」の世界

ゲランには、デパートの一般的なカウンターには並ばない、限られた店舗でのみ取り扱われる最高峰のコレクションが存在します。それが『ラアールエラマティエール（芸術と素材）』です。もしあなたが、既存の香水に飽き足りず、魂を揺さぶられるような香りの体験を求めているなら、この扉を開く時が来ました。

このコレクションは、その名の通り「素材」そのものを芸術の域まで高めることを目的としています。調香師に予算の制限を与えず、世界中から集めた希少な最高級素材を惜しみなく使用して作られます。

そのため、香りの純度、深み、そして持続性が、通常のラインとは桁違いです。

例えば、『スピリチューズドゥーブルヴァニーユ』。これは単なるバニラの香りではありません。船旅で熟成されたラム酒や、最高級のタバコ、シダーウッドが絡み合い、甘いのに甘くない、どこまでもドライで官能的な「大人のバニラ」です。一度この香りを知ってしまうと、他のバニラ香水がお菓子の匂いに思えてしまうほどです。
また、『ローズシェリー』は、何トンものバラの花びらを使用して抽出されたエッセンスに、アーモンドのパウダリーな甘さを加えた、天国的にロマンティックな香りです。しかし、そこには決して子供っぽさはなく、フランス映画のワンシーンのような優雅な余韻が漂います。

さらに、このラインは「パーソナライゼーション（カスタマイズ）」ができるのも大きな特徴です。